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医薬品開発を効率化するAI創薬技術 国内外の最先端ベンチャー企業をピックアップ!

ハイリスク・ハイリターンな従来の創薬手法を大きく変えると期待されている、AI創薬。そんなAI創薬を語るうえで欠かせないのが、国内外で増加しているAI創薬ベンチャーだ。特に、標的探索やリード化合物探索、バーチャルスクリーニングといった基礎研究段階では、AI創薬ベンチャーの革新的なAI技術が大きな役割を果たす。大手製薬企業との連携や協業を進めるベンチャーも多い。 今回は、AI創薬技術の開発に取り組む国内外のベンチャー企業をピックアップして紹介する。

医薬品開発を効率化するAI創薬技術 国内外の最先端ベンチャー企業をピックアップ!

AI創薬の概要や創薬プロセスにおける活用領域などを解説した記事はこちら

海外の注目ベンチャー

Insitro(本社・アメリカ)

参照元:https://insitro.com/

Insitroは、サンフランシスコに本拠地を置く2018年創業のAI創薬ベンチャーだ。機械学習とハイスループット生物学を活用して、従来の創薬方法を大きく変革することを目指している。創業者兼CEOのDaphne Koller氏はAIと生物学の専門家で、36歳の頃にはAIとゲノミクスを組み合わせた研究でマッカーサー賞を受けた。Koller氏の最終目標は、自社ブランドの医薬品開発だという。

同社の特徴は、機械学習に必要な大量の生物学データを自社で生み出している点だ。同社は最先端の生物工学技術を活用し、機械学習に最適化された高品質・大規模なゲノムデータセットを生成している。作成したデータセットを患者データと整合させれば、患者にどの薬が効くかを予測するモデルが構築できるという。

同社は創業以来、投資家や製薬パートナーなどから総額7億ドル以上の資金調達を行っている。最近では、全ゲノムシーケンス診断を提供するイギリスのGenomics Englandとの協業も発表した。

Atomwise(本社・アメリカ)

画像の参照元:https://www.atomwise.com/

Atomwiseは、ディープラーニングとスーパーコンピュータを使用した創薬用のAIシステムを開発する企業だ。リード化合物の探索や最適化を強みとしている。

同社の主力製品システム「AtomNet」は、ディープラーニングを使用して低分子の生物活性を予測する。標的分子と薬剤候補化合物の三次元座標をもとに、構造情報から候補化合物の有効性を推定する。このシステムを使えば、臨床試験より前の段階で、候補化合物の毒性や副作用、薬剤としての潜在的な効果を予測できる。従来の実験手法では約100万個の低分子を調査するのに何年もの歳月を要したが、本システムではなんと1日程度で完了するという。

同社は大手ベンチャーキャピタルなどから1億7400ドル以上の資金を調達しており、全世界250以上のパートナー(製薬企業や農薬企業など)とともに600を超える薬剤開発に取り組んでいる。エボラ出血熱を対象としたプロジェクトでは、わずか1日で有効な薬剤候補化合物の同定に成功した1)。こういった数多くのプロジェクトに取り組むなかでAI技術が改善され続けている点も、同社の強みといえよう。

Exscientia(本社・イギリス)

画像の参照元:https://www.exscientia.ai/patient-first-ai

イギリスのオックスフォードに本社を構えるExscientiaは、2012年創業のAI創薬ベンチャーだ。AIで設計した新薬候補化合物を初めて臨床試験にまで進めた企業として知られている2)3)

同社の強みは、リード化合物の探索だ。独自開発のAI創薬プラットフォーム「Centaur Chemist」を使用すれば、創薬プロジェクトごとに何百万もの薬剤候補化合物を設計し、その有効性や選択性、ADME特性などを評価できる。評価結果をもとに各候補化合物を順位付けし、実際に合成して薬効評価すべき化合物を決定できるのだ。新しい実験データが得られたら、その結果を本プラットフォームに統合して新たな設計サイクルを実施する。既存のデータソースとプロジェクトで生み出される実験データの両方を使って学習を進めるため、より迅速な創薬が可能となる。

同社は、9回のラウンドで合計4億ドル以上の資金調達を実施している。

国内の注目ベンチャー

Preferred Networks


画像の参照元:https://tech.preferred.jp/ja/blog/ai-drug-discovery-covid19/

Preferred Networksは、2014年に創業されたAI技術の世界的リーディングカンパニーだ。交通システムや製造業、バイオ・ヘルスケア領域などを対象に、ディープラーニングやロボティクス技術のビジネス活用を目指している。同社はこれまでに、7回のラウンドで合計165億円の資金を調達済みだ。

同社はAI創薬にも力を入れており、ディープラーニングを活用した独自のAI創薬プラットフォームを構築している。本プラットフォームを使えば、各種化合物ライブラリを用いたバーチャルスクリーニングが可能だ。同社のハイパーパラメータ自動最適化フレームワーク「Optuna」を組み合わせれば、創薬候補化合物の設計や最適化も可能になるという。

同社は、新型コロナウイルス感染症治療薬として有望なリード化合物の探索に成功している4)。また、中外製薬と包括的なパートナーシップ契約を締結しており、実験操作の自動化や物性値の予測といったプロジェクトを進めている5)

Elix

画像の参照元:https://www.elix-inc.com/jp/

Elixは、「創薬・材料開発を再考する」を掲げるAI創薬、マテリアルズ・インフォマティクス企業だ。10以上の国から、さまざまな経歴を持つメンバーが集結している。

同社はAI創薬プラットフォーム「Elix Discovery for Pharma」を構築しており、ヒット化合物の探索からリード化合物の創出まで(活性・物性予測、ADMET予測、分子設計、逆合成解析など)を扱っている。低分子だけでなく、抗体などのバイオ医薬品にも対応可能だ。

同社は、機械学習とバーチャルスクリーニングを通じて新型コロナウイルス感染症の治療薬候補を予測したと発表している6)。また最近では、実用的な逆合成解析の検証に向けて、塩野義製薬との共同研究も開始している7)

MOLCURE

画像の参照元:https://molcure.com/jp/#technologies

MOLCUREは、リード化合物の探索に強みを持つ慶応義塾大学発のスタートアップだ。低分子医薬品を扱うスタートアップが多いなか、同社はバイオ医薬品(高分子医薬品)に特化して技術開発を進めている。

同社は、機械学習に必要な教師データを集めるために社内で進化分子工学実験を実施している。実験で得られたデータを次世代シーケンサでビッグデータに変換し、このビッグデータを活用してAIの学習を進める。学習済みのAIを用いれば、高品質なバイオ医薬品候補を効率的に絞り込める。

同社の大きな特徴は、進化分子工学実験を半自動化するための実験自動化プラットフォーム「HAIVE」を開発している点だ。本プラットフォーム上では、モジュールを使用した実験操作やコンテナによるサンプルの自動輸送が可能。モジュールの組み換えや追加も自由にできる。HAIVEを用いることで実験データのばらつきが少なくなり、教師データの質が向上するという。

同社はこれまでに、7回のラウンドで総額1200万ドルの資金調達を実施している。

まとめ

AI技術やIT技術の発展に伴い、世界中で数多くのAI創薬ベンチャーが誕生している。なかには、ITベンチャーが創薬分野に進出するケースもある。独自の戦略で創薬分野にイノベーションを起こそうとする各社の動向に、今後も注目だ。

ライター:太田真琴

参考文献

1) Atomwise、「New Ebola Treatment Using Artificial Intelligence」、https://www.atomwise.com/2015/03/24/new-ebola-treatment-using-artificial-intelligence/

2) Exscientia、「Sumitomo Dainippon Pharma and Exscientia Joint Development New Drug Candidate Created Using Artificial Intelligence (AI) Begins Clinical Trial」、https://investors.exscientia.ai/press-releases/press-release-details/2020/sumitomo-dainippon-pharma-and-exscientia-joint-development-new-drug-candidate-created-using-artificial-intelligence-ai-begins-clinical-trial/Default.aspx

3) 大日本住友製薬、「大日本住友製薬とExscientia Ltd.の共同研究 人工知能(AI)を活用して創製された新薬候補化合物のフェーズ1試験を開始」、https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/2020/20200130.html

4) Preferred Networks、「AI創薬技術によるSARS-CoV-2プロテアーゼ阻害薬の探索」、https://tech.preferred.jp/ja/blog/ai-drug-discovery-covid19/

5) 中外製薬、「Preferred Networksとの包括的パートナーシップ契約締結について」、https://www.chugai-pharm.co.jp/news/cont_file_dl.php?f=180726jPFN.pdf&src=[%0],[%1]&rep=2,4

6) Elix、「機械学習とバーチャルスクリーニングを通じたSARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤予測」、https://www.elix-inc.com/jp/cases/aidrugdiscovery/1326/

7) Elix、「Elix、実用的な逆合成解析の検証に向け、Elix Synthesize TM(AI創薬モジュール)を用いて塩野義製薬株式会社と共同研究を開始」、https://www.elix-inc.com/jp/news/newsrelease/1438/