医薬品承認申請 資料作成を効率化する最新技術とは
がある。この資料作成は非常に手間がかかる作業で、医薬品開発の時間や費用を増大させる一因だった。最近、IT や人工知能(AI)といった技術の進歩により、申請資料の作成を効率化するさまざまな技術が登場し始めている。今回の記事では、申請資料作成における従来の問題点を振り返った上で、それを解決する最新技術をピックアップして紹介する。
医薬品開発の流れと承認申請資料の作成
最初に、医薬品開発の流れを簡単におさらいしておこう。
新薬の開発は、「①基礎研究→②非臨床試験→③治験→④承認申請・審査→⑤承認・販売→⑥製造販売後調査・試験」というプロセスで進む。
①基礎研究
治療の標的となる分子の探索や医薬品となり得る候補物質の探索を行い、候補物質の性質や精製法、
剤形などを研究する。
②非臨床試験
主に実験動物を対象に、安全性や薬理作用、体内動態などを調査する。
非臨床試験で治療効果や安全性が確認された物質は、ヒトを対象とする治験へと進む。
③治験
第I相~第III相に分かれており、ヒトにおける安全性や薬物動態を確認して投与量や投与方法などを検討する。
④承認申請・審査
各工程で収集したデータをもとに申請資料を作成し、厚生労働大臣に製造販売承認申請を行う。
提出された資料に基づいてPMDAが審査する。
⑤承認・販売
PMDAの審査を通過し、厚生労働大臣の承認が下りれば、申請した医薬品を製造販売できるようになる。
⑥製造販売後調査・試験
市販後には、副作用などの情報を収集・評価し、必要な対策を実施する。
承認申請時に提出する資料は、以下の9種類だ(医薬品医療機器等法施行規則 第40条第1項)。
医薬品にはさまざまな種類があり、下記資料の一部を提出するだけでよい場合もある。
イ:起源又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料
ロ:製造方法並びに規格及び試験方法等に関する資料
ハ:安定性に関する資料
ニ:薬理作用に関する資料
ホ:吸収、分布、代謝及び排泄に関する資料
ヘ:急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、催奇形性その他の毒性に関する資料
ト:臨床試験等の試験成績に関する資料
チ:法52条第1項に規定する添付文書等記載事項に関する資料
上記の資料作成に必要なデータは、主に「基礎研究、非臨床試験、治験」工程で収集される。これらの段階で収集した膨大なデータを、適切に書類化する必要があるのだ。
医薬品承認申請資料の作成に時間がかかっていた理由
従来の承認申請資料作成プロセスには、以下のような問題点があった。
- 資料作成が紙ベースなので、資料を保管するためのスペース確保が困難だった。
- 資料作成を複数の部署で分担する場合も多く、部署間の情報共有や進捗状況の把握に
- 時間がかかっていた(メールや口頭での確認が必要だった)。
- 膨大なファイルの管理が困難で、最新版が分からないといった問題が発生していた。
- 資料作成の担当者が固定されておりスキルが属人化されるため、業務の引き継ぎに時間がかかっていた。
これらの問題点に加え、膨大なデータ量・複雑性などが原因で、申請資料の作成が長期化していたのである。
医薬品承認申請資料の作成を効率化するさまざまな技術
現在、医薬品承認申請資料の作成を効率化するさまざまな技術が登場してきている。代表的な技術を以下で紹介しよう。
①文章作成支援
過去に作成した資料を雛形にして新しい資料を作成する、工程番号を自動で付与する、製造所や原薬などの情報をあらかじめ登録しておく、といった機能を備えた文章作成支援ツールが開発されている。これらを利用すれば、効率的な文章作成が可能となる。
②自動翻訳
国際共同治験が主流となり、承認申請書の迅速・正確な翻訳に対するニーズが高まっている。こうした状況の中、自然言語処理などのAI技術を応用した自動翻訳技術が普及し始めた。医薬分野に特化した自動翻訳エンジンを開発する企業も増加している。
③品質管理(QC)
作成した資料の品質を担保するための技術も進歩している。フォーマットや誤記のチェック、申請手続きに基づいた各種入力項目の整合性チェック、差分比較による追加・変更箇所の確認などができる。
④進捗管理
資料作成の進捗をスムーズに管理できるツールもある。各資料の作成状況(作成中・作成完了・レビュー依頼中・レビュー済など)を一覧で把握したり、最新版のファイルや過去の修正履歴を簡単に参照したりすることが可能だ。
⑤機械学習によるツールの精度向上
文章作成支援や自動翻訳などのツールを導入したとしても、最終的には人手による修正が必要な場合も多い。しかし最近では、人間が最終修正した文書を教師データとして学習することで、自身の精度を徐々に向上させるツールも存在する。学習を続ければ、人手での修正量が次第に少なくなると予想されている。
⑥クラウド機能
上記の各技術をクラウド上で提供する企業も存在する。クラウドには、複数人での同時アクセスが可能、多拠点でのデータ連携が容易、サーバの購入・運用が不要でありコスト削減が可能、セキュリティが高い、といった利点がある。
まとめ
各種の技術革新により、医薬品承認申請資料の作成が効率化され始めている。今後も関連するさまざまな技術、製品、サービスが登場するとみられている。本記事をきっかけに、あなたの会社でも、これまでの申請資料作成プロセスを見直してみるのも一案かもしれない。
ライター:太田真琴